トレントが公衆送信を伴う理由 ——ファイル共有ソフトの類型と著作権法上の送信可能化——
トレントが公衆送信を伴う理由
——ファイル共有ソフトの類型と著作権法上の送信可能化——
〔関係条文〕著作権法2条1項9号の5・23条・119条1項 【要 旨】
本稿は、ファイル共有ソフトの類型(ピュアP2P型とTorrent型)を整理した上で、BitTorrentに代表されるTorrent型ファイル共有ソフトが著作権法上の「公衆送信」(送信可能化を含む。著作権法2条1項9号の5、23条)を必然的に伴う理由を、技術的仕組みと法的構造の両面から論じるものである。あわせて、東京地判令和6年2月21日(令和4年(ワ)第1538号)を素材として、UNCHOKE通信段階のみの捕捉に基づく発信者情報開示請求が棄却された経緯を踏まえ、捜査・証拠収集上の実務的留意点を示す。 第一 はじめに——なぜ「トレント」が問題となるのか
インターネット上における著作権侵害のうち、特に深刻な問題を引き起こしてきたのがP2P(Peer-to-Peer)型のファイル共有ソフトを用いた無断配布である。
ファイル共有ソフトには複数の類型が存在するが、その中でも近年の著作権侵害事犯において注目されているのが、BitTorrentに代表される「Torrent型」ファイル共有ソフトである。この類型は、従来のWinnyやShareといった「ピュアP2P型」とは技術的な仕組みが異なるため、著作権侵害の成立構造も自ずと異なる。
本稿では、まずファイル共有ソフトの類型を整理し(第二)、次にTorrent型ファイル共有ソフトが公衆送信を伴う理由を著作権法の解釈とともに論じ(第三・第四)、最後に捜査・立証上の実務的課題を示す(第五)。
第二 ファイル共有ソフトの類型
一 P2P型ファイル共有ソフトの概観
ファイル共有ソフトとは、インターネットを利用して不特定多数の利用者とファイルをやり取りするためのソフトウェアである。その中でも、P2P接続(Peer-to-Peer接続)によるものは、手軽さから以前より著作権侵害等の犯罪に多用されてきた。「Peer」とは「同等の立場」を意味し、P2P型ではサーバに依存することなくコンピュータ同士が対等に接続してファイルを送受信する点に特徴がある。
主要なP2P型ファイル共有ソフトの一覧は下表のとおりである。 【主なP2P型ファイル共有ソフト】
類型 ソフト名 備考
ピュアP2P型 Winny
Share
PerfectDark
Cabos
Shareaza 草分け的存在はWinny(2002年登場)。ソフト内蔵の検索機能を持ち、トラッカーサーバ不要。
Torrent型 BitTorrent
μTorrent
qBittorrent
Transmission
Bitcomet
Vuze 外部のtorrentファイルとトラッカーサーバを利用。検挙例あり。 二 ピュアP2P型の特徴
WinnyやShareに代表されるピュアP2P型のファイル共有ソフトは、ネットワークに参加しているコンピュータ同士が直接ファイルを送受信する仕組みである。ソフトウェア自体に検索機能が内蔵されており、利用者は欲しいファイルを直接検索してダウンロードできる。中央サーバを必要とせず、純粋な分散型ネットワークを形成する点が特徴である。
著作権侵害の実行行為はアップロード行為に求められ、対象ファイルをソフトウェアの共有フォルダに置いた状態でネットワークに接続することが自動公衆送信(送信可能化)の開始時点となる。
三 Torrent型の特徴
BitTorrentに代表されるTorrent型は、以下の点でピュアP2P型と根本的に異なる。
(1) torrentファイルの必要性:欲しいファイルの保有者が作成したtorrentファイル(対象ファイルのメタ情報が記載されたファイル)を事前に入手してソフトに読み込ませる必要がある。
(2) トラッカーサーバの介在:対象ファイルの保有者情報を管理するサーバ(トラッカーサーバ)が仲介し、ダウンロードしたい端末がどのコンピュータに接続すれば対象ファイルを入手できるかを案内する。
(3) 分散ダウンロード:対象ファイルは小さなデータ単位(ピース)に分割され、複数のピアから分散して取得する。ダウンロード中のユーザ(リーチャー)も、既に入手したピースを他のリーチャーにアップロードする。
(4) シーダーの自動化:ダウンロードが完了したユーザは自動的にシーダー(全ピース保有者)となり、他ユーザへのアップロードを継続する。 Torrent型における著作権侵害の実行行為の始期と終期は、(a)自ら公開するファイルをコンピュータに蔵置した上でネットワークに接続し、(b)torrentファイルをインターネット上で公開するまでの一連の過程に及ぶ。この点でピュアP2P型とは異なり、捜査においても始期・終期に関する慎重な検討が求められる。
第三 BitTorrentにおける通信の流れと公衆送信の発生
一 通信シーケンスの全体像
BitTorrentを使って対象ファイルをダウンロードする過程では、以下の通信シーケンスが順次行われる。★印の段階(UNCHOKE)が東京地判令和6年2月21日において問題となった。 【BitTorrent通信シーケンスと法的意義】
段階 通信名 内容・法的意義
① HANDSHAKE 相手がBitTorrentネットワークのピアであることを相互に確認する。
② ACK 接続完了の通知。ネットワーク参加の最終確認。
③ BITFIELD 互いがどのピース(断片)を保有しているかを確認する。
④ INTERESTED 相手方の保有ファイルへの関心を通知する。
⑤ UNCHOKE ★ 「アップロード可能状態」の通知。東京地判はこの段階を捕捉。ただし実際のデータ送信は未了。
⑥ REQUEST ダウンロード(ピースの取得)を要求する。
⑦ データ送信 ピースの実際のアップロード。自動公衆送信が現実に行われる段階。 二 送信可能化の発生時点
著作権法2条1項9号の5は、「送信可能化」として以下の2類型を規定している。
イ号:公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること等。
ロ号:情報が記録された自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うこと。
BitTorrentの文脈では、対象ファイルを自己の端末に記録した状態でBitTorrentクライアントを起動しトラッカーサーバに接続した時点が、ロ号に該当する「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」として、送信可能化が完成する時点と解される。この段階で著作権者の公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害が成立する。
なお、最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決(民集65巻1号121頁)は、送信可能化の規制趣旨を「現実の自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある」と判示しており、現実の送信(アップロード)が行われる前段階の接続行為をもって侵害が成立することを確認している。
三 なぜTorrent型は必然的に公衆送信を伴うのか
Torrent型ファイル共有ソフトが公衆送信(送信可能化)を必然的に伴う理由は、その技術的仕組みに内在する。
第一に、自動アップロードの仕組み:BitTorrentクライアントは、起動中にトラッカーサーバへ自己のIPアドレスおよび保有ピースの情報を継続的に通知し、他ピアからの接続要求に対して自動的にピースを送信する設計となっている。利用者が個別の送信操作を行わなくとも、クライアントが起動しネットワークに接続されている限り、受信者の求めに応じて自動的にファイルを送信し得る状態(送信可能化状態)が維持される。
第二に、ダウンロードとアップロードの不可分性:リーチャー(ダウンロード中のユーザ)は、ファイル全体の取得が完了する前から、既に入手した一部のピースを他のリーチャーにアップロードする。すなわち、BitTorrentではダウンロードすること自体がアップロードを伴い、利用者は受信者であると同時に送信者でもある。
第三に、シーダーとしての継続的な公衆送信:ダウンロード完了後は自動的にシーダーとなり、完全なファイルを保有した状態でのアップロードが継続する。これは、完全な著作物の自動公衆送信が継続的に行われている状態であり、著作権侵害の継続を意味する。
以上から、torrentファイルを読み込んでBitTorrentクライアントを起動しネットワークに接続した時点で送信可能化による公衆送信権侵害が成立し、その後の現実のアップロードは自動公衆送信権(著作権法23条)の侵害を構成する。
このように、BitTorrentは、単に動画をダウンロードするだけの仕組みではありません。ファイルを小さな断片に分け、利用者同士がその断片を交換する仕組みです。そのため、利用者はダウンロードしている途中でも、すでに取得した断片を他の利用者に自動的に送信することがあります。また、ダウンロードが完了すると、今度は完成したファイルを持つ側、つまりシーダーとなり、他の利用者に送信できる状態が続きます。
このように、BitTorrentでは、利用者が「自分はダウンロードしただけ」と思っていても、技術的には他人に送信できる状態、または実際に送信している状態になるため、著作権法上の公衆送信権侵害、少なくとも送信可能化が問題になります。
もっとも、発信者情報開示請求では、相手方がどの通信を証拠としているかが重要です。単なる「送信できます」という通知通信にすぎないUNCHOKE通信だけでは、権利侵害が明白とはいえないとした裁判例があります。したがって、意見照会書や調査報告書を確認し、実際のデータ送信や送信可能化行為がどこまで証拠化されているかを検討する必要があります。
BitTorrentは、もらいながら配る仕組みだから、公衆送信を伴う。
ただし、裁判では「配ったこと」または「配れる状態にしたこと」の証拠が必要ということになります。 第四 ピュアP2P型とTorrent型の法的相違点の整理 【類型別比較表】
項目 ピュアP2P型(Winny等) Torrent型(BitTorrent等)
ファイル検索 ソフト内蔵の検索機能 外部のtorrentファイルを使用
中継サーバ 不要(純粋P2P) トラッカーサーバが必要
侵害の実行行為 アップロード行為 蔵置+接続+torrentファイル公開
公衆送信の発生 アップロード時 ロ号該当行為(接続完了)時
代表ソフト Winny、Share、PerfectDark BitTorrent、μTorrent、qBittorrent 上表のとおり、ピュアP2P型においては侵害の実行行為がアップロード行為に集約されるのに対し、Torrent型においては(a)蔵置・接続による送信可能化(著作権法2条1項9号の5ロ号・23条)と、(b)現実のアップロードによる自動公衆送信(同法2条1項9号の4・23条)の二段階の権利侵害が生じる点に大きな相違がある。
捜査上は、この二段階の構造を踏まえ、それぞれの段階に対応する証拠を確保することが重要となる。
第五 捜査・証拠収集上の実務的留意点
一 東京地判令和6年2月21日の示す教訓
東京地判令和6年2月21日(令和4年(ワ)第1538号)は、BitTorrentにおけるUNCHOKE通信(アップロード可能状態の通知)の段階のみを捕捉した調査結果に基づく発信者情報開示請求を棄却した。
裁判所の論理は明確である。UNCHOKE通信は「アップロードできる」という通知にすぎず、その時点において著作権法2条1項9号の5イ号またはロ号に該当する新たな行為が行われたとはいえない。送信可能化はUNCHOKE通信より前の段階(クライアント起動・ネットワーク接続時点)で既に完成しており、UNCHOKE通信はその事後的な告知にとどまる。
したがって、UNCHOKE通信のみを捕捉した調査では、「侵害情報の流通」によって権利侵害が生じたことの明白性(プロバイダ責任制限法5条1項1号)を立証できない。
二 有効な証拠化の方法
(a)ロ号該当行為の証拠化:BitTorrentクライアントの起動・トラッカーサーバへの接続という「公衆の用に供されている電気通信回線への接続」を証拠化することで、ロ号に基づく送信可能化の成立を立証できる。具体的には、トラッカーサーバのアクセスログや接続時刻の特定が有効である。
(b)実際のデータ送信の証拠化:REQUEST通信以降の実際のピース送受信を捕捉することで、自動公衆送信の現実的な実施を立証できる。調査ソフトウェアの仕様を見直し、UNCHOKE通信より後の段階を捕捉する機能を実装することが実務上の課題となる。
(c)torrentファイルの公開行為の立証:侵害者自身がtorrentファイルをインターネット上で公開している場合、その公開行為を証拠化することで、侵害の始期と態様を明確に立証できる。
三 その他の捜査上の留意点
トラッカーサーバの運営者の特定:個人が自分のコンピュータをトラッカーサーバとして稼働させていた場合、頻繁なアップロードの可能性が高く、余罪の立件・常習性立証を積極的に検討すべきである。
ブラウザ履歴等の証拠収集:著作権侵害に係るtorrentファイルはトラッカーサイトやアップローダーを経由してやり取りされることが多い。ブラウザの「お気に入り」・閲覧履歴・キャッシュファイルを証拠化することで、故意・違法性の認識および常習性の立証を補強できる。
ダウンロード完了後の継続アップロード:シーダーは自動的にアップロードを継続する。捜査においては、ダウンロード完了後のアップロード継続の事実を捉えることで、侵害の継続性と規模を明らかにできる。
第六 結語
BitTorrentに代表されるTorrent型ファイル共有ソフトは、その技術的仕組み上、起動・接続と同時に公衆送信(送信可能化)を開始し、さらにダウンロードと並行して自動公衆送信(アップロード)を継続する。この点でピュアP2P型とは侵害の構造が異なり、捜査・立証においても類型に応じた的確なアプローチが求められる。
東京地判令和6年2月21日は、UNCHOKE通信のみの捕捉では侵害情報の流通による権利侵害の明白性を示せないことを明確にした。権利者・捜査機関にとっての実践的な含意は、ロ号該当行為(接続・起動)または実際のデータ送信(REQUEST以降)のいずれかを確実に証拠化することにある。
ファイル共有ソフトの技術は日々進化しており、法的対応の精緻化が継続的に求められるところである。
特に、発信者情報開示制度は、著作権者の権利救済に資する重要な制度である。しかし、その運用においては、技術的に捕捉された通信の名称や外形に依拠するだけでなく、当該通信が著作権法上いかなる行為に対応するのかを具体的に検討する必要がある。
とりわけ、通信技術が高度化・分節化する今日においては、ある通信が侵害行為の前提事情であるのか、侵害行為そのものであるのか、あるいは既に成立した送信可能化状態を示す事後的通知にすぎないのかを峻別しなければならない。
この峻別を欠いたまま、抽象的な侵害可能性のみをもって発信者情報開示を認めることは、著作権者保護の名の下に、通信の秘密及び個人情報保護に対する過度の制約を生じさせるおそれがある。権利者保護と利用者の情報保護との均衡は、技術的実態に即した精密な事実認定によってこそ確保されるべきである。 参考文献・関係法令・判例
著作権法(昭和45年法律第48号)2条1項7号の2・9号の4・9号の5・23条・119条1項
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和3年法律第27号による改正後)
最高裁判所第三小法廷判決・平成23年1月18日、民集65巻1号121頁
東京地方裁判所判決・令和6年2月21日(令和4年(ワ)第1538号・発信者情報開示請求事件)